論文解説 |
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2017
年 Kimura A.P., Yoneda R., Kurihara M., Mayama S., and Matsubara S. A long noncoding RNA, lncRNA-Amhr2, plays a role in Amhr2 gene activation in mouse ovarian granulosa cells Endocrinology 158(11): 4105-4121 PubMed HUSCAP 抗ミュラー管ホルモン(AMH)は性分化の際にオスでミュラー管を退化させるホルモンで、成体の卵巣では原始濾胞が若年時に使い切られないように調節する役割を持っています。AMHの作用はその受容体によって規定されますが、T型受容体のALKがさまざまな組織で発現するのに対して、U型受容体のAmhr2は卵巣顆粒膜細胞と精巣セルトリ・ライディッヒ細胞に特異的な発現を示します。したがって、AMH作用の特異性はAmhr2によって決められるのですが、Amhr2遺伝子の転写調節機構についてはこれまであまり解析されてきませんでした。今回、我々はマウスAmhr2遺伝子の調節メカニズムを解析しました。まず500bpのプロモーターにEGFP遺伝子をつないだコンストラクトを用いてトランスジェニックマウスを作製したところ、樹立した10系統のマウスのほとんどで卵巣と精巣はいずれも緑色蛍光を示さずに、唯一精巣が緑色に光った326系統でもセルトリ・ライディッヒ細胞特異的なEGFP発現は観察されませんでした(Fig. 2, Table 3)。このことはマウスAmhr2遺伝子の500 bpプロモーターがこの遺伝子を活性化するのに十分ではないことを示していて、他の転写調節機構を探ることにしました。その結果、Amhr2遺伝子上流から新規のlong noncoding RNA(lncRNA)であるlncRNA-Amhr2がAmhr2と相関して転写されていることがわかり、全長クローニングを行いました(Fig. 1, Fig. 3)。そしてlncRNA-Amhr2が 核に局在したため転写調節への関与が考えられ、卵巣顆粒膜細胞の初代培養系でノックダウンを行ったところ、lncRNA-Amhr2のノックダウンによってAmhr2 mRNA量が減少しました(Fig. 4)。そこでlncRNA-Amhr2がAmhr2プロモーター活性を上昇させる可能性を探るため、マウスAmhr2遺伝子の上流約6.1kbの配列をレポーター遺伝子につなげて、そこに含まれるlncRNA-Amhr2配列を関係ない配列に置き換えたり、lncRNA-Amhr2のプロモーターをもっと強い活性のプロモーターに置き換えるなどしました。その結果、顆粒膜細胞の初代培養系における一過的なトランスフェクションでも、顆粒膜細胞由来のOV3121細胞の染色体に安定的に導入した場合でも、lncRNA-Amhr2の転写活性化によりAmhr2プロモーター活性が上昇することがわかりました(Fig. 5〜7)。さらに、Tet-On系によってlncRNA-Amhr2の転写を誘導できる系をOV3121細胞にて構築したところ、lncRNA-Amhr2の転写誘導によってAmhr2プロモーター活性が上昇することもわかりました(Fig. 8)。以上のことから、今回我々が発見したlncRNA-Amhr2は、 少なくともマウス卵巣の顆粒膜細胞でプロモーター活性を増強することによってAmhr2遺伝子を活性化する新規の因子であることがわかりました。この成果はAMHシグナル系の新たな調節因子を発見したものであるとも言え、ヒトと保存性の高い配列を多く含むlncRNAでもあるので、卵巣機能の調節という観点で極めて重要な知見となります。 |
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