論文解説 |
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2021年 Otsuka K., Matsubara S., Shiraishi A., Takei N., Satoh Y., Terao M., Takada S., Kotani T., Satake H., and Kimura A.P. A testis-specific long noncoding RNA, Start, is a regulator of steroidogenesis in mouse Leydig cells Frontiers in Endocrinology 12: 665874 PubMed Frontiers Website 精巣はあらゆる組織の中でも最も多くのlong noncoding RNA(lncRNA)を発現する組織ですが、その機能解析はあまり進んでいません。特に精巣を構成する体細胞におけるlncRNA機能の検証は不十分な状況です。今回、我々はマウス9番染色体のPrss/Tessp遺伝子座で新しい精巣特異的lncRNAを発見してStartと名づけ、その発現・機能解析を行いました(Fig. 1)。Startは全長1822塩基で、すべての種類の生殖細胞で核と細胞質に発現し、ライディッヒ細胞の細胞質でも高い発現を示しました(Figs. 2-4)。我々はその機能解析のために、ゲノム編集法によってStartノックアウトマウスを作成しましたが、2.5ヶ月齢の時点で精巣の形態や精子数に変化はありませんでした(Fig. 5)。そこで2.5ヶ月齢の精巣を用いてRNA-seq解析と定量的RT-PCR解析を行った結果、Startノックアウト精巣でステロイド合成に必須のStar遺伝子とHsd3b1遺伝子の発現が有意に上昇していることがわかりました(Fig. 6AB)。ところが、血清と精巣におけるテストステロン濃度を調べると、いずれもStart欠 損によって減少していました(Fig. 6CD)。このことは、脳下垂体のアンドロゲン受容体と精巣のLH受容体の発現が上昇していたことと関連すると考えられます(Fig. 7)。つまり、テストステロン濃度が低くても、脳下垂体へのフィードバック制御が機能し、精巣ではLHに対する感受性が上昇したために、Star遺伝子とHsd3b1遺伝子の発現が上昇した可能性があります。Startの機能をより明確に知るために、フィードバック制御があまり機能していない8日齢のマウスを調べたところ、血清テストステロン濃度とStar、Hsd3b1の発現はいずれも減少していました(Fig. 9)。このことは、Startがこれらの遺伝子の発現を活性化することでステロイド合成を活性化する機能を持つことを示唆しています。また、興味深いことに、8日齢のStart欠損精巣ではライディッヒ細胞の数が減少していることがわかり、もしかしたら胎児性ライディッヒ細胞の分化にも機能を持つのかもしれません。最後に、マウスライディッヒ細胞由来のMA-10細胞とTM3細胞の培養系にStartを過剰発現させたところ、いずれの場合もStar遺伝子とHsd3b1遺伝子の発現が有意に上昇しました(Fig. 10)。以上のことから、Startは精巣のライディッヒ細胞でStar遺伝子とHsd3b1遺伝子の発現を活性化することを通して精巣テストステロン合成を調節する因子であると結論しました。本研究はlncRNAのライディッヒ細胞における機能を初めてin vivo実験系で示した成果となっています。 |
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