論文解説 |
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2016
年 Yoneda R.*, Satoh Y.*, Yoshida I., Kawamura S., Kotani T., and Kimura A.P. *equally contributed A genomic region transcribed into a long noncoding RNA interacts with the Prss42/Tessp-2 promoter in spermatocytes during mouse spermatogenesis, and its flanking sequences can function as enhancers Molecular Reproduction and Development 83: 541-557 PubMed HUSCAP 我々はマウス精巣の減数分裂過程で一次精母細胞において特異的に転写活性化される3つのプロテアーゼ遺伝子、Prss42/Tessp-2、Prss44/Tessp-4、Prss43/Tessp-3を同定して、これらが減数分裂の進行と生殖細胞の生存に重要な役割を果たすことを明らかにしました(Yonedaet al., 2013)。今回はこれらの遺伝子が一次精母細胞で特異的に活性化されるメカニズムを解析しました。まずマウス精巣の生殖細胞と肝臓の細胞を集めてDNase I 高感受性領域とノンコーディング転写を調べました。DNase I高感受性領域というのは、その細胞・組織でクロマチンの緩んでいる領域のことを指し、通常は転写調節に重要な配列となっています。解析の結果、生殖細胞のみでDNase I 高感受性領域となっているのがPrss42/Tessp-2プロモーターだけであることがわかりました(Fig. 1)。一方で、Prss42/Tessp-2の下流から精巣特異的なノンコーディング転写があることがわかり、この転写産物をクローニングしてlncRNA-HSVIIIと名づけました(Fig. 2)。in situ hybridization解析の結果、lncRNA-HSVIIIはパキテン期と呼ばれる時期には一次精母細胞の核に局在していましたが、その後細胞質へと局在を変化させて精細胞まで発現していることがわかりました(Fig. 3)。我々はこのlncRNA-HSVIIIが3つのPrss/Tessp遺伝子のどれかを調節する可能性を考えて、lncRNA-HSVIIIの転写されるゲノム領域と相互作用する領域を調べました。Chromosome Confromation Capture法によって解析したところ、lncRNA-HSVIIIが転写される下流のゲノム配列が、精母細胞においてPrss42/Tessp-2プロモーターと相互作用していることがわかりました(Fig. 4)。そこで、lncRNA-HSVIII転写領域とその上流下流を含む5.8kbのゲノム配列をPrss42/Tessp-2プロモーターで駆動するルシフェラーゼ遺伝子につないだところ、この5.8kbの配列がPrss42/Tessp-2プロモーター活性を上昇させることがわかりました(Fig. 5)。ところが、この解析において5.8kbの配列からlncRNA-HSVIIIが転写されていないこともわかり(Fig. 6)、プロモーター活性の上昇が5.8 kb配列に含まれるエンハンサー活性によるものであることが予想されました。そこで、この5.8kb配列を3つに分けてPrss42/Tessp-2プロモーターに対するエンハンサー活性を調べたところ、lncRNA-HSVIII転写領域の上流下流配列ともにエンハンサー活性を持つことが明らかになりました(Fig. 7)。つまり、lncRNA-HSVIII自体はPrss/Tessp遺伝子の活性化に機能していない可能性が高いかわりに、その周辺配列が精母細胞特異的なエンハンサーとしてPrss42/tessp-2遺伝子の活性化機能しうることが明らかになりました。精巣における減数分裂過程では、特に一次精母細胞で多くの遺伝子が一斉に活性化されることが知られていますが、その分子メカニズムはよくわかっておらず、本研究ではそのメカニズムの一端を明らかにしたことになります。 |
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